2012年12月28日金曜日

『空が灰色だから』が面白かったって話

 前々から話題になってた『空が灰色だから』の1巻を今更ながら買って読んだ。互いに関連のない一話完結のオムニバスで、どのエピソードもそれぞれ面白かったけど個人的にすきなのは9,11,12話あたりかなあ。
 第9話はクラスの女子の心の中に無神経さから土足で踏み込んでしまう男子の話。
 第11話はものを食べるということを異化する話。
 そんで第12話は、ちょっと変わった一編。タイトルは『ガガスバンダス』。下校途中の小学生女子3人がおしゃべりしているとガガスバンダスという何かの話題になる。どうやらクラスでも流行しているようで、3人のうち2人は熱心に会話しているんだけど残りの子は何がなんだか分からない。そこで2人にそれが何かって聞いてみるけど彼女たちの「これ知らないとかありえねえ」的な雰囲気に流されてつい実は知ってるってふりをしちゃう。話の断片から推測してみても何が何やら全くわかんないから結局自分は本当に知らないと白状するんだけど、その告白もガガスバンダス廃人の妄言扱いされて結局ガガスバンダスの正体は分からずじまい。っていう。
 これって明らかに世にも奇妙な物語の有名なエピソード『ズンドコベロンチョ』と同じ内容で、それ自体は普通の不条理なお話。それだけでも結構面白くはあるんだけど個人的に結構好きだなあと思ったところはこの漫画の反復構造(いや、構造っていうほどのものなのかわからんけど)。
 この話は台詞だけ読むとまあ一応(不条理なりに)普通に話が進んではいるんだけど、読者が違和感を覚えるのはそのストーリー以上にたった12ページの超短い漫画の中で全く同じコマ割、構図が3回も繰り返されることの方だと思う。ほんと何の説明もなく同じシーンが繰り返される。で、さらによく絵を見てみるとシーンが反復されるたびに着ている服が少しずつ、背景も少しずつ、登場人物の名前まで少しずつ変わっていっている。着ている服に注目すると一番最後のページとあと数コマ(つまり3度目の暗転以降)が時系列的には一番最初のシーンと同じだと分かる。そう気づくとこのコメディ風のストーリーが俄然不気味に見えてくる。それまでガガスバンダスを知らない子の立場で読んでいたけど逆にその子に信頼が置けず他2人こそ正常なんじゃないかという気がしてくる。
 ところでこの作品なんかに似てるなあと読みながら思ったのは筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』だった。この小説では同じシーンが文字通り反復されて少しずつ変化していく。読んでて眩暈がするような作品でこれが今世紀の筒井康隆の最高傑作じゃないかなあ。超好き。あと同作者の 『 夢の木坂分岐点 』も主人公がちょっとずつ異なる自分に変化しながら夢の中をさまよう話でこれも連想した。実際にこれらの作品を読んでるかは別にして作者もこういう感覚が好きで描いてるんだとしたら単純にちょっとうれしい。

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