uブックス版が出たときに確保してそのまま積んであったものを読み終えた。(何ヶ月か前)
この長編小説もこれまでミルハウザーが繰り返し書いてきた類型通りの作品ではあったけど、ちょっとした野心を感じた。
その類型っていうのは『アウグスト・エッシェンブルク』とか『J・フランクリン・ペインの小さな王国』みたいな、からくり人形なりアニメーションなりある一つのことに魅せられた天才がその道をひたすら極め一度は社会的な栄光を手にするも、大衆の理解の及ばない高みを目指したために結果忘れ去られていくというお話。ただミルハウザーはそのストーリー自体にはたいして執着しているわけじゃないと思う。この人が執着しているのはむしろ細部の描写、それを積み上げていくことで見えてくる全体のメカニズム。もうひとつはイマジネーションの横溢っていうか頭の中にある幻想を外部に現出させること。
この小説の中で主人公のマーティンはホテルを成り立たせる構造に魅了され、
ホテルを通じて
自分の狂気にも近いアイデアを現実のものにしたけど、じゃあここでそのホテルって何だと言ったら、わざわざ字にするのもはばかられるけどそりゃもちろん小説そのもの。自分の小説観を思いっきり表明した決め球でしっかりと賞とったんだからやるなあ。
でも正直言ってそこ以外の人間ドラマ的なところはダルかった。